イタリアワイン土着品種研究会Vol.36~宮嶋さんコラム ~

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Vol.36_NERO Ⅾ‘AVOLA編

 

【シチリアの夏の夕べの赤ワイン】

 

ネロ・ダーヴォラは土着品種ルネッサンスを牽引した主役の一人だ。1980年代からイタリアでは国際品種(シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど)がブームを巻き起こしたが、それに対してイタリア各地にある個性豊かな土着品種の魅力が再発見されてきたのが1990年代後半のこと。その中でも人気が高かったのがネロ・ダーヴォラである。ちょうどこの頃シチリアワインが大量生産から高品質に舵を切り、世界的成功を収めつつあった。眠れる獅子と言われた大産地シチリアがようやく目覚め、イタリアワインのニューフロンティアとして注目を集めたのである。豊かな果実味を持つネロ・ダーヴォラは土着品種に慣れていない外国市場でも受け入れられやすかった。同じシチリアでもネレッロ・マスカレーゼやペッリコーネなどのアクが強い品種と違って、ネロ・ダーヴォラはある種の親しみやすさが魅力である。

 

シチリアを代表する品種なので、島の各地で栽培されているが、産地によってかなり異なるワインが生まれる。南部のアグリジェントでは濃厚で野性的なワイン、南西部メンフィではやさしい豊潤なワイン、南東部パキーノでは凝縮感のあるハーブと海を感じさせる厳格なワイン、北西部のトラーパニでは濃厚なワインといった具合に、同じ品種と思えないぐらい様々な顔を持つ。また軽めで飲みやすいデイリーワインから長期熟成能力を誇る雄大なワインまで、造られるワインのスタイルも幅広い。

 

私はワインガイドでシチリアを担当していたので、ネロ・ダーヴォラが地方品種から国際的スターに上り詰めるまでを間近で見守ることができた。おかげでネロ・ダーヴォラによる偉大なワインを多く飲む機会に恵まれたが、不思議と懐かしさを覚えるのはガイドブックの試飲で滞在していたパレルモやカターニアで夕食時によく飲んだ気軽なネロ・ダーヴォラだ。シチリアの夕食は遅いので21時を過ぎる。その頃には涼しい風が吹き始め、昼の暑さが嘘のように爽やかな夕べとなる。7月のシチリアはバカンス客に溢れ、陽気で寛いだ雰囲気に満ちていた。そんな時は少し冷やしたシンプルなネロ・ダーヴォラがとても美味しく感じられた。昔シチリアの農夫はネロ・ダーヴォラを濃い目のロゼワインのように醸造し、それを毎日飲んでいたという。シチリアの日常を支えてきた品種でもあるのだ。偉大なワインを生むネロ・ダーヴォラだが、肩の力を抜いた寛いだ表情も心に残るものがある。

 

 

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